言葉をめぐる旅 plus CRT-D

じぶんの病気の付き合い方を考えるブログ

滑舌 [入院 #19]

「どうもお世話になりました」と、退院していく人に挨拶される。1ヵ月近く入院していると、何人かにそう挨拶を受け、その人を見送ってきた。私の病室は4人部屋なのであるが、何日かで退院していく人が多く、入れ替わり患者がその病室に入院していく。転院の日が近づき、同室の人に挨拶せねばと「どうもお世話になりました」という台詞の練習をしている。脳梗塞によって滑舌が悪くなり、口頭で話すには相手側に聞きずらいという場合が出てしまう。短いフレーズでも伝えずらい。短い単語は言えるのであるが、長い単語や、文を言う時、たとえるなら言葉が絡まって正確に言えないのである。「どうもお世話になりました」と言う時は、文を短く区切って「どうも」「お世話に」「なりました」とゆっくり言えばいいのかと、それを試してみる。 「どうも」は発音できるが、「お世話に」「なりました」の滑舌が悪く、どうにも体裁がよくない。病気なので仕方がないと諦める一方、普通に口で言えようとの期待感が頭の中で交差する。人に何かを伝えようと、言葉を使って口頭で言いずらいことも、何か努力せざるを得ないという気持が、ベッドに座っている自分自身の心境である。転院の日、同室の他の患者達は退院して、4人部屋の病室は私一人であった。挨拶する人はいない。いくら挨拶の練習してもうまく言えなかったが、その挨拶のフレーズは今も心に残って、リハビリ病院に転院の日を思い出すのだ。