言葉をめぐる旅 plus CRT-D

じぶんの病気の付き合い方を考えるブログ

喋ること [入院 #27]

2014年、脳梗塞を発症し失語症に陥った。リハビリ病院に入院してその年、もうクリスマスに差し掛かろうとしていた。師走という月は、普段なら予定が立て込み、矢継ぎ早に仕事をこなしていかねばならない時期である。病気で入院という状況で、リハビリに打ち込まなければ仕事に復帰できない危機感と、自分の病気の状態をチェックしたときの失望感が入り混じる。ナースステーションの前の飾ってあるクリスマスツリーを眺めると、ふと家族の団欒がオーバーラップしてきた。デイルームで食事をするテーブルの席も、自分が入院した頃と比べると、そこには同席する患者は退院して、新しく来た患者と入れ替わっていた。退院した患者の中には、私と同様、失語症を患っている人もいた。私の病状よりも軽度なのか、他の患者や看護師とも普通に会話している。その人の語調は非常に明瞭であった。リハビリで良くなったのかもしれないと、その人にどんなリハビリを行っているのか聞きたかった。だがあの時は、失語症によって、喋りかけようにも、その人に対して自分が何を言っているのか、それを理解してもらえる自信がない。他人に話を伝えること、喋ることに勇気がいるのだ。リハビリの一環で、一日程度、家族と外出することができるようになった。散髪のために理容室に行ったのだが、髪をどのくらい切るのか等、その担当の人にうまく言えない。その人は、私が失語症であることの事情がわかっていないので、致し方ないのであるが、怪訝そうに思ったのであろう。他人に対して、 伝えたいことを口頭で言い、理解してもらう。何時になったらそんな日が来るのだろうと、世間と別の場所である病院を離れて、外出先でそう思った。