主治医が、今後の治療について面談したいという。その方針の話を聞くと、本人のためにも入院を持続させてリハビリ治療を続けた方がよいと進められた。失語症は回復するのかと聞きたい気持ちがあったが、それはいわゆるリハビリの効果次第という、病院の立場を頭ではわかっていた。しかし、退院はまだであるという意識が、なんとも心を揺らしていた。入院してリハビリ治療を継続させれば、回復の兆しが少しでもあるような気がして、病院に見放されるわけではないと思い直した。春まで入院し、とらえどころない言葉のリハビリで、頭脳を鍛錬するしかないようだ。会社の同僚が何人か面会に来た。入院のことについて状況を会社に報告するようだ。脳梗塞を発病した頃に比べ、少しずつ話せるようになっていると、自分の病状に気を使っているようだった。最近の会社の様子について聞いてみると、大きい変化は無いようであるが、細かい事情があったようで、社内の情報を語ってくれた。会社の人と会えば、それは現実に社会と向き合うことになる。病気と仕事が相まみえると、病気の回復を待つしか方法がないような気がする。何ヶ月も仕事を休んで、仕事に復職はできるのか。退院して復職できたとしても、言葉どうなっているのか。失語症にまつわる心配事は数多く、それを上げれば霧がない。病室でリハビリの課題に向かう。先の見えない展望は、療法士から出た課題に取り組めば、何か違う場所が見えるような気がして、無我夢中になる。だた、脳梗塞のせいなのか、何かに取り組んだ時、集中力が長い間続かない。頭が疲労したら休憩を挟み、ストレッチや心を休めて何も考えない時間を作る。頭の疲労が落ち着いたら、課題を再開する。療法室でリハビリ治療を行う。日々、入院生活が過ぎ去っていく。